ピートとフェノール値とは
スコッチの一部に見られるスモーキーな香りは、大麦麦芽を乾燥させるときに焚くピートの煙に由来します。スコッチウイスキー協会もそう説明しています。その煙の成分が麦芽にどれだけ付いたかを示す数字が、フェノール値、いわゆる ppm です。ここでは燻蒸の仕組み、ppm の測り方と限界、区分の目安を整理します。
ピートと麦芽の燻蒸
ピートは泥炭のことで、コケや草などの植物が酸素の乏しい環境で長い年月をかけて分解しながら積み重なったものです。
製麦では、水に浸して発芽させた大麦を、キルンと呼ばれる乾燥炉で乾かします。このとき燃料にピートを使うと、煙が大麦の殻に吸着します。煙に含まれる成分の中心はフェノール類で、フェノール、グアイアコール、クレゾールなど主要な8種類と、多数の微量成分があります。煙を当てる時間を長くするほど、麦芽のフェノール値は上がります。アードベッグの蒸溜所マネージャーは、水分の多い大麦のほうが煙が殻に付きやすいと述べています。
ピートの成分は採れる場所で異なります。島や沿岸のピートは内陸のものより海藻や砂を多く含み、スコットランド北部のピートは南部よりヘザーが多い傾向があります。スコッチウイスキー研究所の研究者が関わった2009年の調査では、各地のピートから106の化合物が検出され、うち46がフェノール類でした。
Scotch Whisky Regulations 2009 は、スコッチに加えてよいものを水とプレーンカラメルに限り、色・香り・味は原料と製法・熟成に由来するものであることを求めています。スモーキーな香りも、後から加えるものではなく製麦の工程から来るものです。
ppm は麦芽の値
ppm は parts per million の略で、百万分率を表します。重さでいえば、麦芽1kgあたり1mgのフェノール類が1ppmに当たります。
公表されるフェノール値は、ピートで燻した後の麦芽を測った値で、瓶の中のウイスキーを測った値ではありません。測定法は高速液体クロマトグラフィーが最も信頼できるとされ、多くの場合、燻した麦芽にピートを使わない麦芽を混ぜて目標の値に調整します。
ブルイックラディの公式サイトは、同じロットの大麦から造ったオクトモア 17.1 と 17.2 を、どちらも 81.0ppm と記載しています。17.1 はバーボン樽、17.2 は赤ワインやポートワインに使われた樽を経て熟成しており、熟成が違っても数字は同じです。数字が麦芽の段階で決まることを示す例です。
蒸溜と熟成で減る
麦芽に付いたフェノール類は、その後の工程で少しずつ失われます。
| 工程 | フェノール類に起きること |
|---|---|
| 製麦 | 煙の成分が殻に付く。ppm はこの段階で測る |
| 粉砕 | 殻に付いているため、殻が失われたり粉砕で大きく動いたりすると減る |
| 糖化・発酵 | 一部は搾りかすに残り、一部は別の化合物に変わる |
| 蒸溜 | 重いフェノール類は再溜の後半に出る。取り分けを止める位置で量が変わる |
| 熟成 | 揮発して少しずつ抜けるとの見方がある。ピートが軽いほど、ほかの香味に隠れやすい |
取り分けの位置、いわゆるカットは蒸溜所ごとの判断です。スペイサイドのベンロマックは、ピートを強めた銘柄と通常の銘柄の違いを、カットの位置の調整だと説明しています。アードベッグとラガヴーリンはカットの位置が近いものの、蒸溜の進め方が異なるとされます。
ppm の限界
- ppm はフェノール類の総量で、どの化合物がどれだけ含まれるかは示しません。ごく微量でも香りに影響する成分があり、量の多いフェノールそのものの寄与は小さいとされます。
- 最終的な香りは、工程で失われる量に大きく左右されます。Whisky Magazine は、80〜309ppm のオクトモアが 40ppm のラフロイグの2倍以上スモーキーなわけではないと指摘しています。オクトモアの場合、高い値は主に蒸溜で抑えられるとされます。
- Scotch Whisky Regulations 2009 にはピートやフェノール値の規定がありません。公表するかどうかは蒸溜所の判断です。
- オクトモアはピートを使わない麦芽を混ぜずに造るため、値が一定しません。ブルイックラディは、大麦もピートも毎回異なると説明しています。
ノンピートからヘビリーピーテッドまで
区分に法的な定義はありません。次の数値は、Whisky Magazine(2016年)が示す麦芽の値の目安です。
| 区分 | 麦芽のフェノール値の目安 |
|---|---|
| ノンピート | ピートを使わずに乾燥させた麦芽 |
| ライトリーピーテッド | 10ppm 前後 |
| ミディアムピーテッド | 25ppm 前後 |
| ヘビリーピーテッド | 40〜50ppm 以上 |
一つの蒸溜所でこの幅を持つ例がブルイックラディです。公式サイトは、ブルイックラディをノンピート、ポートシャーロットを 40ppm のヘビリーピーテッド、オクトモアをスーパーヘビリーピーテッドのシリーズとして分けています。
公式サイトが公表している値
| 蒸溜所 | 銘柄 | 公表値 |
|---|---|---|
| ブルイックラディ | オクトモア 17.1、17.2 | 81.0ppm |
| ブルイックラディ | オクトモア 17.3 | 132.1ppm |
| ブルイックラディ | ポートシャーロットのシリーズ | 40ppm |
| キルホーマン | マキヤーベイ、サナイグ、ロッホゴルム | 50ppm |
オクトモア 17.3 は、アイラ島のオクトモア農場の一つの畑(Irene's Field)で獲れた大麦を使った5年熟成です。公式ブログは、オクトモア第8シリーズで 309.1ppm に達したと記しています。
アイラとアイランズの蒸溜所
当サイトはアイラの蒸溜所を11件収録しています。稼働中が9件、1983年に閉鎖されたのち再建されたポートエレンが1件、1929年に閉鎖されたロッキンダールが1件です(閉鎖蒸溜所一覧)。稼働中の9件はアードベッグ、アードナホー、ボウモア、ブルイックラディ、ブナハーブン、カリラ、キルホーマン、ラガヴーリン、ラフロイグです。アイラでも、ブルイックラディのようにノンピートのシリーズを持つ蒸溜所があります。
アイランズは7件で、すべて稼働中です。オークニーのハイランドパークとスキャパ、スカイ島のタリスカーとトラベイグ、マル島のトバモリー、アラン島のアラン、ジュラ島のジュラです。ハイランドパークは、使うピートにヘザーが多く含まれることを打ち出しています。
家で試すなら
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よくある質問
- 「ピーティ」とはどういう意味ですか。
- ピートの煙に由来するスモーキーな香りを指して使われる言葉です。スコッチウイスキー協会は、一部のスコッチに見られるスモーキーな風味は、大麦を乾燥させるときに焚くピートの火に由来すると説明しています。
- 公式サイトやラベルの ppm は瓶の中の値ですか。
- いいえ。ピートで燻した後の麦芽を測った値です。フェノール類は粉砕、糖化・発酵、蒸溜、熟成の各段階で失われるため、麦芽の値がそのまま瓶の中に残るわけではありません。
- ppm が高いほどスモーキーになりますか。
- 数字の大小だけでは決まりません。ppm はフェノール類の総量で成分の内訳を示さず、蒸溜のカットの位置などで残る量も変わります。Whisky Magazine は、80〜309ppm のオクトモアが 40ppm のラフロイグの2倍以上スモーキーなわけではないと指摘しています。
- ヘビリーピーテッドは何 ppm からですか。
- 法的な定義はなく、Scotch Whisky Regulations 2009 にもピートやフェノール値の規定はありません。Whisky Magazine は麦芽の値で、10ppm 前後をライト、25ppm 前後をミディアム、40〜50ppm 以上をヘビリーピーテッドの目安としています。
- アイラのウイスキーはすべてピーテッドですか。
- いいえ。アイラのブルイックラディは、公式サイトでブルイックラディのシリーズをノンピート、ポートシャーロットを 40ppm のヘビリーピーテッド、オクトモアをスーパーヘビリーピーテッドとして分けています。当サイトはアイラの蒸溜所を11件収録しています。